今こそ議論すべきユニセックストイレ導入論

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僕達は「社会」というコミュニティに属して共に暮らしている。右を向いても左を向いても、誰とて同じ人ではない。時に好奇に映ったとしても、互いの差異を許し合い譲り合い認め合うことで初めて共に暮らすことが成立する。

だが時として、壁は大きく立ちはだかる。頂も陰って見えない様な、避けては通れぬ壁だ。僕達は時として選択を迫られる。打ち壊すのか。それとも乗り越えるのか。

去年、目に留まった出来事がある。大阪の商業施設で40代の男性が女性用トイレを利用し、通報された件だ。その人は、戸籍上は男性で性自認は女性だという。大きく報道されたニュースだったので記憶に新しい人も多いと思う。

出来事の経緯はあえて今回は触れないが、とにかくマイノリティーであろうがなかろうが、皆思う所が多分にあったに違いない。

当時の僕は同フロアに多目的トイレがあった事を知って、「わざわざ女性用トイレを使うのではなく、有るものを使うべきだよ」と思ったし、それは確かに一般論として究極的に正しいのかもしれない。しかし本人は、「いけないことだと分かっていたが、女性であると認められている気がするから、女性トイレを使いたかった」と述べている。だとするのならば、透明純度の高い万人受けする正論のみを全面的に押し付けるのは些か酷な気もしてしまう。

また、何より日々気を遣ってトイレを利用しているトランスジェンダーの方々は、本件でより肩身の狭い思いをされたのではないか。

性別に関係なく、皆が心配なく安全に利用できる権利が一様に守られるべきだと曇りなく思う。

一方、アメリカやスウェーデンなど、「ユニセックストイレ」なるものが存在する国もある(場合によって「オールジェンダートイレ」や「男女兼用トイレ」と呼ばれている)。

これは性別に縛られることのない、誰もが自由に足を運べる空間として設けられている。端的に言えば、「身体の性は男性だが、心の性が女性である方」は今まで男性トイレを使わざるを得なかった。その逆も然りだ。だがこのシステムが導入されれば、そういった場面における不安や不満は劇的に解消されるはずだ。

ユニセックストイレに関連する情報を収集する過程で、僕個人としてはすごく画期的な発想だとポジティブに受け取った。

これは性的マイノリティー限らず、オストメイト(人工肛門・人工膀胱を造設している人)や知的障害、発達障害等、「可視化されづらい障害」があるお子さんの保護者の方が利用するにも画期的だ。

そう考える背景には、過去に僕自身が福祉に携わっていたことや、実妹に自閉症と知的障害があることが関係している。外出先の一般的なトイレで、保護者の方が中学生以上の年齢のお子さんを介助する際に、周囲の人から好奇な目や言葉を向けられる事は少なくない。だがそれも、ユニセックストイレが導入されるならば、多くのトランスジェンダーやオストメイト、介助する保護者の方にとっては、気が引けて利用を控える事態が大きく改善されるはずだ。

勿論ユニセックストイレをいきなり導入するのは現実的ではない。無理に押し付けるのではなく、段階的かつ試験的なアプローチが根気強く必要とされる。実際にユニセックストイレが増加しているアメリカでさえ、現在も議論は絶えない。それでも実現すれば、今よりも格段により多くの人達が生きやすくなる。様々な人が皆同じ様に、気兼ねなく公共施設を利用できる社会が訪れるのを願うばかりだ。

稲葉理央

年齢:24歳

性別:男

自己紹介:好きな食べ物→ハンバーグとカルボナーラと壺漬け。

趣味→小説の執筆、喫茶店探訪、民俗学や比較言語学の研究。モットー→「刻石流水」。